化学および工学的な視点から生物機能のシステム解析につながるバイオセンシング法の開発と応用について進めている。生体反応は、生体分子の相互作用による多段階反応により進行し、その機能情報解析は細胞や生体の機能制御において重要となる。ペプチドアレイを用いて抗体などの相互作用解析を進めることにより分子メカニズムを解明し、健康、医療、食品、環境分野への展開を目指している。
ペプチドは、アミノ酸がペプチド結合した分子であるが、多彩な生理機能を有し、生命現象を支える機能を担っている。生体の情報伝達・制御系に関わる生理活性ペプチドは、創薬ターゲットとしての展開が進められている他、ナノ機能性材料としても注目されている。固相合成を利用したon chip spot合成法によりペプチドアレイを作製し、抗体認識ペプチドなどをはじめ、様々な機能性ペプチドの探索に取り組んでいる。
「匂い」を認識するタンパク質嗅覚受容体の性質に着目し、そのアミノ酸配列から選出されたペプチドを用いた匂いセンサの開発を進めている。「匂い」は、それぞれの匂いの素となる分子が、鼻腔内の嗅覚受容体に結合し、脳内にシグナルを伝搬することで認識される。この嗅覚受容体の機能を模倣したペプチドを探索し、センサ素子上に修飾することで、特定の匂い分子に反応するセンサを開発する。この技術は、昨今のグローバル化社会に向けた検疫システムへの応用を期待している。
接着性の哺乳類細胞は接着面を移動し、その軌跡を示すように細胞外小胞ミグラソームを残す。ミグラソームには、サイトカインをはじめとする多様なタンパク質やmRNA、microRNAといった細胞間情報伝達を担う分子が内包されており、生体内において重要な役割を担っている。我々は、細胞接着面に細胞接着性ペプチドや細胞膜貫通ペプチドを修飾することで培養基板を機能化し、ミグラソームの形成を促進・捕捉するペプチド修飾基板を開発した。これを用いて、ミグラソームの細胞間情報伝達能の解析に挑む。また、細胞外液の浸透圧の低下がミグラソーム様小胞の形成を誘導することを発見し、ミグラソーム形成への細胞膜張力の関与が示唆された。細胞移動に伴い形成されるという唯一無二な性質をもつミグラソームの生物物理学的な側面に着目し、その形成機構の解明を目指している。
小児食物アレルギーに着目し、ペプチドマイクロアレイを用いた抗体エピトープ解析によるアレルギー検査法の開発について進めている。食物アレルギーの中でもミルクに着目し、牛乳に含まれる全タンパク質のアミノ酸配列を基にペプチドプローブをスライドグラス上に結合したミルク網羅ペプチドアレイを作製した。少量の血清(10μL)を用いたアッセイが可能となったことから、臨床医の先生方やその患者さんのご協力により、多数の牛乳アレルギー患者血清を解析し、IgE抗体の結合特性を詳細に調べることで、抗原の確定のみならず、その病態や治療経過の把握に有効であると示唆され、アレルギー発症や寛解機序の解明にも寄与する解析法として期待している。
定電位1Vの印加により微生物を殺菌できることから、電気化学防汚システムの開発を進めている。微生物は固液界面でバイオフィルムを形成する。電気化学殺菌を利用してバイオフィルムの形成を防止することにより、海洋構造物への生物付着を抑制できることを実証している。